8月号 No.004 | 月刊近美トップ / メニュー / トップページ | |||
子供たち、さらに大人たちまでもを魅了するシャボン玉。 そのシャボン玉を大量に、かつ全自動で発生させる装置がある。 バブルマシンである。 それは人類が生み出した究極のファンタジー。 そして、ここにバブルマシンに人生を捧げた男がいた。 札幌市。
人口約180万人、東京以北最大の都市である。 この都市の中心部にそびえ立つさっぽろテレビ塔。その地下に、今回の舞台である近未来美術研究所がある。 ■平成16年7月2日(金) 研究所内では極秘の研究が進められてた。 研究の指揮をとるのは、所長である荒木博士だった。 「今回の研究を進めるためにシャボン玉を大量に発生させる装置が必要だ。君が作ってくれないか?」 荒木は研究メンバーに言った。 「わかりました。」 返事をしたのは塚田研究員その人であった。 「来週の土曜日までになんとかあげてほしい。あと他の関係者にも極秘でたのむよ。」 塚田は微かに震えた。 「なんとかします。」 それしか言えなかった…。 塚田は自室に戻り呆然とした。 来週の土曜、すなわち7月10日まで今日を含めて9日間しかない。 さらに、他の研究員にも極秘。作業は普段の研究を終えた夜間にしかできない。 「不可能」という文字が塚田の脳裏をよぎった。 ■平成16年7月3日(土) 一夜が明け、塚田は落ち着いた表情を取り戻していた。 昨日の夜にある結論に達していたからだ。 「市販のシャボン玉のおもちゃを使えばいい」−−簡単な事だった。 塚田は早速リサーチを始めた。どのおもちゃを買えば良いか、をである。 一時間後、インターネットで調査をしていた塚田は、煙草の灰が落ちたことにも気づかず、ただコンピュータの画面を見つめていた。 画面にはバブルマシンの制作方法が表示されていた。 塚田は言った。 「やるしかない。」 シャボン玉を発生させるにはシャボンの膜に適度な風を送ればいい。 そして、バブルマシンにおいて、膜を作る主な仕組みはディスク型とドラム型があることが解った。 大量のシャボン玉を発生させるには後者−−ドラム型が有利だった。原理的にはごく簡単なものだった。 塚田は確信した。 「これならできる…。」 すぐさま設計図を描き、必要な材料を揃えた。 休日である今日と明日の内に、ある程度成功しなければならなかった。 若干の不安はあったものの、準備は半日で整った。 金網のゴミ箱が回転することによって、編み目にシャボンの膜ができる。それをドライヤーで吹き付けてシャボン玉を発生させる。 4時間後、予定通り作業は完了した。 ドラムの回転はまだ手動であったが、これは後からでも解決できる。 塚田は多目的実験室で実験を開始した。 シャボン玉は出た。 しかし、塚田は浮かない表情だった。 複数のシャボン玉が泡のように固まってしまったからだった。 塚田はつぶやいた。 「だめだ、ドラムの穴が小さすぎる。」 落ち込んでいる暇はなかった。塚田はすぐさま新しいドラムの製作を開始した。 ■平成16年7月4日(日) 塚田は、起床した。傍らには新しいドラムが転がっていた。 昨夜、新しいドラムでの実験も失敗だった。 新たな問題はドライヤーの風力が弱すぎる事だった。 ドラムの問題でも落ち込まなかった塚田が、落ち込んだ。 気がつくと日曜が終わろうとしていた。 ■平成16年7月5日(月) 問題は何も解決していなかった。日中は通常の研究もしなければならない。 塚田は焦っていた。 ドラムを自動で回転させる問題も残っていた。 しかし、時間は無慈悲に過ぎていった。 ■平成16年7月7日(水) ドラムの回転は電動ドライバーの動力を使用することで落ち着いた。 実験も上手く行った。 しかし、風力の問題はまだ解決していなかった。 再び「不可能」という三文字が塚田の脳裏に浮かんだ。 ■平成16年7月8日(木) 塚田の目に光が戻っていた。 ある解決方法を閃いたからだった。 ■平成16年7月9日(金) 塚田はすぐさま昨日考案した方法を実践した。 ドラム内に小型のドライヤーを上向きに2つ設置した。 まさに逆転の発想であった。 塚田は言った。 「完璧だ…。」 ■平成16年7月10日(土) 荒木博士を含む4人の研究員達が、多目的実験室に集まっていた。 その中に、自信と不安の入り交じった表情の研究員がいた。 塚田だった。 実験は開始された。 たくさんのシャボン玉が宙に舞った。 成功だった。 塚田は安堵した。 しかし、その直後、問題が起きた。ドライヤーがシャボン液を吸い込んでしまったのだ。 塚田は頭が真っ白になった。やはり不可能なのか…。 その時、荒木が口を開いた。 「これくらいは大した問題ではない。もう少し時間を与えるから解決してくれ」 塚田はただ嬉しかった。 一週間後 野外実験場で大量のシャボン玉が塚田の視界を覆っていた。 塚田は力強く言った。 「不可能なんて90%は嘘ですよ。その気になれば大抵のことは可能なんです。」 バブルマシンは完成していた。 完璧な出来映えだった。 それは、まるでトイザらスに売っている市販品のような形をしていた。 プロジェクトK
「ファンタジーを作り出せ バブルマシンに人生を捧げた男」 −完− |
▲このページの先頭へ 月刊近美トップ / メニュー / トップページ |